「準備した内容を全部は語れないまま、本番が終わる」
というコメントをお聞きすることがあります。
懸命に準備したのに、6割程度しか話せない。
これは、スピーチやプレゼン、講義や講演など、人前で話す機会において、よく起こることです。
原因には、2種類あります。
【原因1】原稿の情報量が多い
今まで1万人以上の原稿を見てきましたが、
・真面目で細やかに配慮するタイプ
・心配性
・アイデアを考えるのが好きな人
これらに当てはまる人は、原稿に足し算をしがちです。
そうした原稿の多くは、本番で抜け落ちる箇所が増えます。
というのも、脳の作業台(ワーキングメモリ)には限界があるのです。
「書く」ときには、原稿に情報を落とし込んで、自分が覚える必要性がありません。
「話す」ときは、それを覚えたり、本番で思い返したりする必要性があります。
この思い返すという作業で、脳の作業台が活用されます。
原稿の情報量が多いと、脳の作業台が溢れかえります。
もし、抜群の暗記力を持っていて全てを話せても、今度は聴衆の頭が情報で一杯になり、話が印象に残らないまま終わってしまいます。
【原稿2】話の要素が多い
「3つの要点」など、複数の情報に触れている場合は、思い返すのに脳の負荷がかかります。
スライドなどに、3つの要点が書いてある場合は、まだ良いのです。
問題は、自分の記憶だけを頼りに、たくさんのポイントに触れる場合。
要点1を思い出して、要点2を思い出して・・と考えながら話すうちに、話が飛びやすくなります。
同様に、情報A⇒情報B⇒情報A など、入り組んだ構成になっている場合も危険です。
情報Bを話そうと思い返す時点で、話が飛びやすくなります。
話すことに適した「情報編集」が必要
10割の内容を伝えるためには、情報を思い返しやすい、シンプルな内容にすること。
それは、聴衆にとっても、聞きやすい話になります。
まずは、話全体を通して、「伝えたいことは何か」を決めましょう。
漠然としたテーマではなく、具体的なメッセージを設定します。
結婚式披露宴のスピーチであれば、「新郎は堅実な人、素敵な家庭を築ける」とか、
プロジェクトの業績を報告するプレゼンなら、「今期は調子が落ち込んだが、来期に期待」など。
そのメッセージを語るかどうかは別ですが、伝えたいことの核心を言語化しておくこと。
すると、どこを重点的に語るのか、あるいはどこを軽めに語ったほうがよいのかなど、推敲すべき箇所が分かりやすくなります。
また、情報の行き来があるなど複雑な話になっていたら、それは整理しましょう。
メディアの世界では「編集」と呼ばれる作業があります。
情報をただ伝えるのではなく、相手の受け取り方を意識して、組み替えたり、引き算をしたりする作業です。
編集を意識した話は、10割すべてを伝えても、自分が話しやすく、聞き手が疲れない内容に変わっていきます。
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