サイキングアップとは、スポーツ心理学の分野で考えられた、鼓舞の技術。
例えば、スポーツの試合前に、選手が円陣を組んで「いくぞー!」と掛け声などするシーンがあります。それがサイキングアップの一例です。
人は気持ちが高揚すると、エネルギーを出しやすい状態になります。その効果を狙った鼓舞がサイキングアップです。

古垣講師
スピーチでも、サイキングアップ(鼓舞)の効果を狙うことができます。
2023年WBC決勝前、大谷翔平選手の声出しは、選手たちの気持ちが一つとなる話が展開され、サイキングアップ的な影響力を持つ、スピーチになっていました。

(図の注釈は古垣が加筆)

古垣講師
ただ気合を入れるのではなく、無理強いさせる訳でもなく、心に訴えかけてチームを前進させる。見事なスピーチだと私は感じます。
スピーチでサイキングアップをするなら
具体的にコツを挙げるなら、スピーチが以下のような話に向かうと、サイキングアップの流れを作りやすいと感じます。
- ・「チームや組織の目標を再確認」
- ・「取り組みがどのような未来に繋がるかを語る」
- ・「取り組みの社会的意義を語る」
これらは「役職のある人が、スピーチでよくやっていることだ」と感じられるかもしれません。
ただ、注意点があるので、次のポイントをご覧ください。
人を鼓舞するときの注意点
聴衆の思いを無視して、一方的にサイキングアップをするのは危険です。
聴衆の心が話し手から離れていくためです。
本来、スピーチは聞く人の気持ちと伴走しながら、メッセージや提案を伝えるものです。
大谷選手の声出しも、まさにそうした伝え方になっています。
サイキングアップを使う以前に、聴衆の気持ちに共感ができること。
また、その思いを言葉に乗せて、話を構成できること。
こうした土台があって初めて、サイキングアップのような影響力のあるスピーチを作れるようになります。
自分がムードの起点となる意識で
もう一つ考えたいのが、自分が場のムードメーカーである、という認識です。
というのも、話し手の感情は、話を通じて聴衆に伝わります。
私自身、大いに反省したことがあります。
以前、スピーチの集まりを主催した際、冒頭の挨拶で、私が「天候が心配な話」をしたのです。
すると、参加者がそれぞれが挨拶をする番になって、「自分の心配事」をそれぞれ口にされる流れに。
一度、その流れが作られてしまうと、主催者としてムードを変えるのにかなりエネルギーが必要でした。
暗いムードにさせるのではなく、聞く人の足取りを軽くし、前に進む意欲を引き出す。
そうしたムードを醸成することも、話し手に託されやすい役割の一つかもしれません。

古垣講師
「ムードの起点となる」ことに慣れると、サイキングアップを適切に使うことにも慣れていけます。
入門編「ラクに話せる文章の基礎」+「本番力が身につく練習法」」
放送業出身の講師が教える、「スピーチを覚えて話す」ための基礎力を磨ける動画レッスン。
ひとりでも本番並みの負荷を味わいながら、スピーチ練習ができます。




【執筆者】古垣博康


